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  • 『父・こんなこと』─幸田文─

    明日は父の日です。みな様、どのように過ごされますか?

    父=幸田文という方程式が私の中に定着したのは、『父•こんなこと』を読んだ時からでしょう。『父』という作品は、文氏が、父である幸田露伴の病床に臥す様子、死に向かう様子、そして葬儀の様子を記録し綴ったものです。看病する娘としての心の葛藤、父と娘の間で行き交う心の緊張感が随所に描かれ、父娘の在り方というもの、病や死に対する向き合い方を考えさせられます。

    例えば、この一節は印象的でした。

    看病は実に父とのいさかいだった。…病人に対する心持ちの粗雑さ、操作の不手際、何もかも気に入らないことだらけらしかった。不満足が皮肉になって飛んで来た、不平が慨嘆調で投げられた、じれったさが意地悪になって破裂した。早くよくなってもらいたさでいながら、目の前に浴びせられる不愉快なことば、仏頂面は反抗心をそそった。…そのことば、その調子を一緒に聞いても他人は刺戟されないのに、私はざっくり割りつけられたような痛みをうけとった。そういうことが血がつながっていることだと思っていたし、そういう悲しい宿命に堪えなくてはならない親子であった。

    読み進めて行くうちに、強く感じるのは文氏の父への尊敬の念。こんな風に父親を尊敬している娘は、今の日本にどのくらいいるだろうか、、、とつい考えてしまいます。

    そして続く『こんなこと』には、文氏が幼い頃から父に教わった日常のいろいろについて書かれています。掃除の仕方や、豆腐の切り方、障子の張り方、借金の挨拶などについて。テンポ良く楽しむことのできる、面白い作品です。

    幸田文氏の著作には、必ずと言っていいほど自身の着物が表紙カバーに用いられています。それだけ見ても、着物の勉強になるくらい素晴らしいものばかりです。まずは表紙から入ってみるのもいいかもしれませんよ。


  • 絲穂の楽しみ方6

    県内、梅雨入りしました。

    雨の日は、前庭を臨むスペースへ。 水たまりにできる波紋、雨粒の重みで枝垂れるカエデ。 その雨粒は、晴れ間に陽が差せばきらきらと輝きを放ちます。

    雨の日にしか経験できない風景があります。

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  • 悲しみよ こんにちはーフランソワーズ・サガンー

    サガンの名作『悲しみよこんにちは』 を読まれたことはありますか?今年は作品が誕生して50周年ということで、日本でもサガンの人生を映画化したものが、まもなく放映されるそうです。

    初めて読んだ中学二年の時から、この作品は私にとってなくてはならないものとなりました。「ものうさと甘さとがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。」という始まりは、当時の私の心を捉え、小説に引き込まれて行きました。主人公である17歳のセシルに、理性的な女性アンヌが(セシルの新しい母親になる予定の女性)恋愛について次のように諭す場面があります。「あなたは恋愛について少し単純すぎる考えを持っているわ。それは独立した感覚の連続ではないのよ。」…「そこには絶え間ない愛情、優しさ、ある人の不在を強く感じること。」このあたりの台詞がとても印象的で、特に「ある人の不在を強く感じること」という部分は、10代の私には理解に難しかったのですが、いつか理解できるハズだと思いそれから毎年、読み返すようになりました。同じ作品でも、毎年感じ方が違うものです。それまで読み過ごしていたところを、突然面白いと感じたり、逆に大好きだった場面がそうでもなくなったり。作品に対して新鮮さを感じると同時に、自分という人間の新たな一面を発見することにもなります。

    登場人物は17歳のセシル、プレイボーイのセシルの父、その恋人エルザ、父のもうひとりのガールフレンドであるアンヌ、セシルのボーイフレンドのシリル。17歳の少女特有の純粋さ、それゆえの残酷さ、独占欲、完璧なものに対する反発など、微妙に揺れ動く心理状態を軸に物語は展開します。

    さて、この5人が織りなす悲しみの世界とは、いかに‥。


  • 復元 江戸時代のきもの

    ただ今、関西学院大学、時計台展示室にて、現代の職人によって復元された 江戸時代のきもの(当時きものは小袖と呼ばれていました)が展示されています。できるかぎりの当時の技法を使って復元された作品はどれも、絞り、友禅、刺繍すべての点において素晴らしく、美しいものでした。実際に使われた型紙、繭、糸、染料、など普段目にすることのできない貴重なものもたくさん見ることができます。制作工程のビデオ上映も行われており、きものだけ見ていても分からない細かい作業や職人さんの技に見入ってしまいます。見えないところで手を抜いてないものは、きちんとした結果として顕れるのだということを痛感します。6月20日(土)13時半〜「きもの職人こぼれ話」と題して、職人さんの講演があるそうです。入場無料。

    同時に展示されています、江戸時代の小袖裂もたいへん見応えがあります。こんなにも貴重ないろいろを、こんなにも間近で見ることができるなんて、なんと贅沢な企画でしょう!!お近くにお住まいの方、お近くまで行かれる方、ぜひ足をお運び下さい。7月15日まで展示されています。

    関西学院大学文学部文化歴史学科美学芸術学専修


  • 生物と無生物のあいだ

    ちまたではインフルエンザが大流行しておりますが、みな様はご無事でしょうか。

    ウィルスとは、生物でもあり無生物でもあるのだそうです。栄養を摂取することもなく、呼吸もせず、老廃物を排泄することもない点では無生物なのですが、いったん細胞に寄生すると、そのDNAを複製し、増えるのだそうです。この自己複製能力を持っているという点において、生物と呼ぶことができるとのこと。今まさに私たちは、生物と無生物のあいだを行ったり来たりするナゾの存在に悩まされ、不安にさせられているのですね。

    ウィルスを生物とするか無生物とするかは未だに決着のついていない議論だそうで、こんな時期に不謹慎な言い方かもしれませんが、こんなにも人を翻弄するウィルスとは、ある意味では魅力的な「何か」なのかもしれません。

    今、私の手元には『生物と無生物のあいだ』という本があります。みな様も一度読まれれば、ウィルスに対する考え方が変わるかもしれません。著者は「生命とは自己複製するシステムである」というだけでは、ウィルスを生物とは定義できないとした上で、自己複製システム、つまりDNAや遺伝をテーマに論を展開し、生命とはいかなるものであるかを本書において述べていきます。

    この本は科学の知識が全くなくても読み進めることができます。小説を読んでいるような感覚です。とても興味深かったのは、細胞にも「ふるまい」方があるというくだり。英語で”behavior”まさに「ふるまい」、立派な専門用語です。読めば、細胞もわれわれと同じようにふるまっていることがわかります。この本を読んで、体の中でも、人と人との関係と同じことが行われていることがわかって、科学をとても人間味があふれる学問分野なのだと考え直すようになりました。理系は苦手という方にもオススメです。

    このようなご時世だからこそ、生命とは何かを見つめてみるよいチャンスではないでしょうか?

    そろそろマスクは外してみませんか。


  • 絲穂の楽しみ方5

    絲穂では、毎朝お香を薫いています。何十年変わらない香りです。お気に召せば、一箱1500円でお分け致します。ちょっとしたプレゼントにも喜ばれています。一日の中でちょっと気分転換をはかりたいとき、お香でリフレッシュするのもいいものですよ。


  • 絲穂の楽しみ方4

    カウンターに座ってみましょう。なが〜いカウンター、ケヤキの一枚板です。マットは柿渋で別注したもの。使い込むほどに良い色合いになって行きます。

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    イスは、無垢のウォルナット材。使い込むほどに良い色になります。すべて木目の表情が違いますから、お好みの顔をしたイスにお座り下さいませ。ついつい長居してしまう座り心地です。座布団は、テーブルマットと合わせて柿渋で別注したもの。皆さまのお尻で、歴史を刻んで下さい。

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    季節の花へも目をお留め下さい。今日の花は情熱的なフリージア。お客様にいただきました。

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    絲穂の楽しみ方

    絲穂の楽しみ方2

    絲穂の楽しみ方3


  • 絲穂の楽しみ方3

    絲穂には喫茶メニュー表がありません。敢えて作っていません。コーヒー、紅茶、ココア、こぶ茶、サンドイッチ、トーストいろいろあります。常連さんになると、ピザトーストやフレンチトーストなんて通な注文もあります。これからの季節におすすめなのが、ソーダ水またはその上にアイスがのったクリームソーダ。まず、そのきれいな色で人気です。敢えて写真を出しませんので、どうぞお越しになって注文してみて下さい。

    絲穂の楽しみ方

    絲穂の楽しみ方2


  • バラとあじさい

    いつも素敵なお花をプレゼントして下さるお客様がいらっしゃいます。今月は、バラとあじさいをいただきました。 こちら、本当に珍しいバラです。名はブラックティー。神秘的な雰囲気で、いらっしゃるお客様を魅了していました。

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    こちら、あじさい。と言っても、一般的なあじさいとはひと味、ふた味違いますね。ひとつひとつの花の可憐なこと!しばらく二階に飾りますので、お着物を御覧になる際には是非あじさいにご注目下さい。色も上品で本当にきれいです。

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  • 母という字を書いてごらんなさい

    明日は母の日ということで、お母さんの詩をひとつご紹介します。

    大好きな詩人のひとりである、サトウハチロー氏の作品。サトウハチローという名前、皆さんはご存知ですか?名前を知らなくても、たとえば「うれしいひなまつり」、「ちいさい秋みつけた」などの童謡や、「リンゴ可愛いや 可愛いやリンゴ♪」のフレーズでお馴染みの「リンゴの唄」は一度は耳にされたことがおありでしょう。これらの詩の作者です。

    産みの母親と思春期に死に別れる運命にあったサトウ氏の作品には、幼い頃に刻まれた母の記憶や母への思いを綴ったものが数多くあります。その中から、「母という字を書いてごらんなさい」というタイトルの詩を。

    母という字を書いてごらんなさい

    母という字を書いてごらんなさい

    やさしいように見えて むづかしい字です

    恰好のとれない字です

    やせすぎたり 太すぎたり ゆがんだり

    泣きくづれたり‥笑ってしまったり

    お母さんにはないしょですが ほんとうです

    皆さま、どのような感想をもたれますか?母という字は言われて見れば、女性の姿がそのまま形になったかのように見えてきました。母親というひとりの女性の捉え方がうまいですね。たった数行の詩ですが、深いメッセージ性を感じます。また、男性の視点だからこそ捉えることのできた母の姿なのかもしれません。他の詩も読んでみたいと思われた方は、ハルキ文庫『サトウハチロー詩集』をお求め下さい。