ここ数日は、千葉のお客様からご紹介いただいた素敵なバッハの音色をBGMにしております。平崎真弓さんというヴァイオリニストの演奏です。バッハの良さが力強く美しく響いてきます。是非、店内にてお楽しみくださいませ。
-
-
小津安二郎「晩春」
いい映画のはなしを、もうひとつ。巨匠、小津安二郎監督の「晩春」。初めて観た小津映画でしたが、感銘を受けました。「晩春」は、父 周吉の手ひとつで育てられたヒロインの紀子が縁付き、嫁ぐ日までのふたりの心の変化、葛藤を描いたものです。
印象的だったのが、同じ場面が繰り返し使われていることでした。キーとなる場面は居間か、紀子が着替える二階の部屋のふたつぐらいなのですが、だからこそ登場人物たちの感情の変化がくっきりと浮き彫りになるのです。居間で父と娘が食事をする場面でも、結婚話がある前と後では、同じ場面でも繰り広げられるドラマがまったく違うんですね。いつもは外出先から帰ると二階へ上がり、笑顔でエプロン姿に着替えて家事にとりかかる紀子が、結婚の話の後、父から離れる寂しさや複雑な心境から、泣き伏せるシーンがあります。同じ場所での、笑顔と涙。心の内が痛いほど伝わってきます。何気ない日常の場面ばかりですが、日常ほどドラマティックなものはないのだと、この映画を観て思いました。ささいなことがきっかけで大きく動くうねりのようなものを感じます。感動します。娘が嫁いだ日、紀子のいなくなった二階の部屋で、かつて紀子が泣き伏せたイスに座って、今度は父が涙を流すラストシーンは、忘れられません。
この映画で初めて、原節子さんを知りました。こんなにも穢れのない美しさを持った女優さん、いませんね。存在そのものがキラキラしていて、本当の意味で優れた女性。釘付けになりました。
-
映画「悪人」
皆さま、今年は、何か映画を観られましたか?印象に残ったものはありましたでしょうか?先日、新聞で面白い記事を読みました。昨今、映画は表現物というより消費物としての側面が強くなったというのです。例えば、今年大ヒットを飛ばした「海猿」や「踊る大捜査線」他には「HERO」「ルーキーズ」など、テレビドラマの続編が映画化され、ヒット作になるケースが大変目立っている。けれども、それらは必ずしも優れた映画とは言えないというのです。芸術性の高い作品よりも、いかに売れるかということに焦点が当てられているということですね。かつては、映画評論家の意見が大きな影響力を持っていたのに対し、近頃はブログやツイッターで一個人も自由に意見を発信できるようになり、いわゆる権威というものが揺らいでいるのだそうです。専門家も、「何が本当にいい映画なのかよく分からない」というのが現状。確かに、このごろは新作映画となると、あらゆるメディアで過剰なまでの宣伝が流れ、何を観ていいのか分からなくなることがあります。
今年唯一、映画館で観た作品が「悪人」でした。きっかけはなんとなくだったのですが、これは観て良かったと本当に思いました。リアリティがあって、良い映画です。人間の脆さや、弱さ、優しさ、そして日常のささいな偶然が重なって生まれてしまった罪に、考えさせられることがたくさんありました。主演の深津絵里さん、妻夫木聡さんの演技が素晴らしかったのも印象的です。特に、妻夫木さんってこんなに実力のある俳優さんなんだと初めて知りました。昨今話題の3Dやアクションの多いド迫力の映画とは、まったく違う種類のパンチが心に効きます。
さて、映画はいつもどなたとご一緒されますか?私は、基本ひとりです。ひとりで観る作品を決めて、ひとりで泣いて笑って、「ひとり」を満喫しています。たまには、誰の意見にも左右されないひとり時間も良いものです。
-
桃太郎、あらわる。
京都の問屋さんです。このブログでもよく登場します音符の帯や、黒の羽織りはこちらの問屋さんの商品です。いつも、足袋、雪駄、作務衣という格好でお見えになります。袷の季節になると、桃太郎の羽織りがトレードマーク。手描きに鮮やかな桃太郎は、一度見たら忘れられませんね。こういった面白い羽織りの別注も承っております。
さて、先日はちょっと素敵なお話を聞かせて下さいました。今時は人工的に絹を作り出すこともよく行われていますが、本物の絹は組織がとても複雑で、機械では到底、同じようには作れないそうです。やはり絹は、天からの授かり物、お蚕様なんですね。
いつか店内でこの後ろ姿を目撃された際には、一声かけて差し上げて下さい。