今月は炉開きです。気温が下がり寒くなってくると、釜から上がる湯気が何ともあたたかく、一服が大変おいしく感じる季節です。
さて、この時期になると思い出すのが、友人に連れられ初めてお稽古場を訪れた日のこと。玄関を入ると、どうやら先生の機嫌がよろしくないようで、 何やら大きな叱り声のようなものが聞こえます。とても厳しい先生だと聞かされ、ただでさえ緊張していた私に追い打ちをかけるようなこの声。茶室の前まで進 むと、釜から上がる湯気の向こうにはズラリと居並ぶお弟子さんたちの神妙な顔、顔、顔。。。ああ、私はこれからこの中に入って、どうなるんだろう。。。緊張と不安と恐怖で(笑)いっぱいでした。
先生は確かにとても厳しい方でしたから、たくさん叱られました。お稽古を始めて数ヶ月は、お茶室に入ることさえ恐ろしくいつも、ビクビクしてい ました。けれど、やめたいと思ったことがなかったのは、親さえ本気で叱ってくれない年になって、本気で叱ってくれる先生にとても感謝したからです。叱って くれる人は、褒めることも同時にとても上手であることも学びました。ある、たったひとつの動作ができなくて絞られに絞られた後は、必ず「ほら、できたやな いの。それを覚えとき。よう頑張った。」の声がかかります。満面の笑顔で。その笑顔に救われ、叱られ、また救われることの繰り返し。人を叱ることはなんと 大変なんだろうと思いました。よくぞ、何もできない私を叱り、褒め、ながめて下さったと今でも感謝の気持ちでいっぱいです。この頃は、本気で叱ってくれる 人も、この人になら叱られても付いて行きたいと思う人も、少なくなりましたね。寂しいです。
炉開きの頃、釜の湯気を見るといつも思い出します。先生の叱り声と、笑顔と。それから、先生のご機嫌次第で張りつめたり、笑い声に包まれたりし たお茶室の空気を。初めての日、神妙に見えたお弟子さんたちは、みなさんとても良い人たちでした。喧嘩は両成敗、順番を決める時はくじ引き、早く来た者に 福あり。一番にお稽古に行くと、必ず何かためになるお話しを聞かせて下さいました。早く来た者の特権や、と仰って。ここぞという時は年功序列がありました が、普段はその調子でみな平等。あらそいごとは起きようがありませんでした。