『父・こんなこと』─幸田文─

明日は父の日です。みな様、どのように過ごされますか?

父=幸田文という方程式が私の中に定着したのは、『父•こんなこと』を読んだ時からでしょう。『父』という作品は、文氏が、父である幸田露伴の病床に臥す様子、死に向かう様子、そして葬儀の様子を記録し綴ったものです。看病する娘としての心の葛藤、父と娘の間で行き交う心の緊張感が随所に描かれ、父娘の在り方というもの、病や死に対する向き合い方を考えさせられます。

例えば、この一節は印象的でした。

看病は実に父とのいさかいだった。…病人に対する心持ちの粗雑さ、操作の不手際、何もかも気に入らないことだらけらしかった。不満足が皮肉になって飛んで来た、不平が慨嘆調で投げられた、じれったさが意地悪になって破裂した。早くよくなってもらいたさでいながら、目の前に浴びせられる不愉快なことば、仏頂面は反抗心をそそった。…そのことば、その調子を一緒に聞いても他人は刺戟されないのに、私はざっくり割りつけられたような痛みをうけとった。そういうことが血がつながっていることだと思っていたし、そういう悲しい宿命に堪えなくてはならない親子であった。

読み進めて行くうちに、強く感じるのは文氏の父への尊敬の念。こんな風に父親を尊敬している娘は、今の日本にどのくらいいるだろうか、、、とつい考えてしまいます。

そして続く『こんなこと』には、文氏が幼い頃から父に教わった日常のいろいろについて書かれています。掃除の仕方や、豆腐の切り方、障子の張り方、借金の挨拶などについて。テンポ良く楽しむことのできる、面白い作品です。

幸田文氏の著作には、必ずと言っていいほど自身の着物が表紙カバーに用いられています。それだけ見ても、着物の勉強になるくらい素晴らしいものばかりです。まずは表紙から入ってみるのもいいかもしれませんよ。