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  • 小津安二郎「晩春」

    いい映画のはなしを、もうひとつ。巨匠、小津安二郎監督の「晩春」。初めて観た小津映画でしたが、感銘を受けました。「晩春」は、父 周吉の手ひとつで育てられたヒロインの紀子が縁付き、嫁ぐ日までのふたりの心の変化、葛藤を描いたものです。

    印象的だったのが、同じ場面が繰り返し使われていることでした。キーとなる場面は居間か、紀子が着替える二階の部屋のふたつぐらいなのですが、だからこそ登場人物たちの感情の変化がくっきりと浮き彫りになるのです。居間で父と娘が食事をする場面でも、結婚話がある前と後では、同じ場面でも繰り広げられるドラマがまったく違うんですね。いつもは外出先から帰ると二階へ上がり、笑顔でエプロン姿に着替えて家事にとりかかる紀子が、結婚の話の後、父から離れる寂しさや複雑な心境から、泣き伏せるシーンがあります。同じ場所での、笑顔と涙。心の内が痛いほど伝わってきます。何気ない日常の場面ばかりですが、日常ほどドラマティックなものはないのだと、この映画を観て思いました。ささいなことがきっかけで大きく動くうねりのようなものを感じます。感動します。娘が嫁いだ日、紀子のいなくなった二階の部屋で、かつて紀子が泣き伏せたイスに座って、今度は父が涙を流すラストシーンは、忘れられません。

    この映画で初めて、原節子さんを知りました。こんなにも穢れのない美しさを持った女優さん、いませんね。存在そのものがキラキラしていて、本当の意味で優れた女性。釘付けになりました。


  • 映画「悪人」

    皆さま、今年は、何か映画を観られましたか?印象に残ったものはありましたでしょうか?先日、新聞で面白い記事を読みました。昨今、映画は表現物というより消費物としての側面が強くなったというのです。例えば、今年大ヒットを飛ばした「海猿」や「踊る大捜査線」他には「HERO」「ルーキーズ」など、テレビドラマの続編が映画化され、ヒット作になるケースが大変目立っている。けれども、それらは必ずしも優れた映画とは言えないというのです。芸術性の高い作品よりも、いかに売れるかということに焦点が当てられているということですね。かつては、映画評論家の意見が大きな影響力を持っていたのに対し、近頃はブログやツイッターで一個人も自由に意見を発信できるようになり、いわゆる権威というものが揺らいでいるのだそうです。専門家も、「何が本当にいい映画なのかよく分からない」というのが現状。確かに、このごろは新作映画となると、あらゆるメディアで過剰なまでの宣伝が流れ、何を観ていいのか分からなくなることがあります。

    今年唯一、映画館で観た作品が「悪人」でした。きっかけはなんとなくだったのですが、これは観て良かったと本当に思いました。リアリティがあって、良い映画です。人間の脆さや、弱さ、優しさ、そして日常のささいな偶然が重なって生まれてしまった罪に、考えさせられることがたくさんありました。主演の深津絵里さん、妻夫木聡さんの演技が素晴らしかったのも印象的です。特に、妻夫木さんってこんなに実力のある俳優さんなんだと初めて知りました。昨今話題の3Dやアクションの多いド迫力の映画とは、まったく違う種類のパンチが心に効きます。

    さて、映画はいつもどなたとご一緒されますか?私は、基本ひとりです。ひとりで観る作品を決めて、ひとりで泣いて笑って、「ひとり」を満喫しています。たまには、誰の意見にも左右されないひとり時間も良いものです。


  • 無事

    早いもので、今日から師走です。卯年に向けて、飛躍を予感させるようなひと月になればいいですね。どうか無事に今年を終えられますように。今月も皆様のお越しをお待ちしております。人気の干支刺繍のタオルなど、新年迎えの小物がいろいろ揃っています。


  • 桃太郎、あらわる。

    京都の問屋さんです。このブログでもよく登場します音符の帯や、黒の羽織りはこちらの問屋さんの商品です。いつも、足袋、雪駄、作務衣という格好でお見えになります。袷の季節になると、桃太郎の羽織りがトレードマーク。手描きに鮮やかな桃太郎は、一度見たら忘れられませんね。こういった面白い羽織りの別注も承っております。

    momotarou

    さて、先日はちょっと素敵なお話を聞かせて下さいました。今時は人工的に絹を作り出すこともよく行われていますが、本物の絹は組織がとても複雑で、機械では到底、同じようには作れないそうです。やはり絹は、天からの授かり物、お蚕様なんですね。

    いつか店内でこの後ろ姿を目撃された際には、一声かけて差し上げて下さい。


  • 宮崎友禅斎の原画

    先週より、二階の床は宮崎友禅斎の原画で飾られています。この秋の七赤図は、紅葉の頃に毎年掛けて楽しんでいます。鮮やかな色使い、今にも鳴く声の聞こえてきそうな鳥の描写や、美しい草花の様子など、友禅染めの祖、友禅斎の力量を存分に味わうことができます。

    yuzennsai

    明日の勤労感謝の日、営業しています。皆さまのお運び、お待ちしております。


  • 米沢進之介の「色紙」

    米沢進之介氏の付下げ「色紙」です。現代的な色遣いと、控えめな柄でとても気に入っています。帯合わせが実はとても難しい着物なのですが、音符の帯がぴったりときましたので、この度のパーティー仕様に致しました。氏の付下げや訪問着は、そもそも地色が日本的な雰囲気から少し離れているので、帯はいかにもフォーマルのものより、フォーマルさの中に洒落感があるものや、渡りの柄を配したものが合います。ひと味違ったコーディネートを楽しみたい方に、おススメの作家さんです。

    sinnnosuke

    さて今回の晩餐会は、三國さんご自身とお話ししたり、記念撮影をしたり、世界的に有名なシェフを身近に感じることのできるチャンスでした。三國さんは、気さくで自然体、包容力のある素敵な方でした。いただいたお料理がみな、美味しいばかりでなく優しいお味だったことが、よく解りました。


  • 熊谷好博子の「紅葉狩り」

    母の愛用品です。熊谷好博子氏の紅葉狩りの帯。ちょうど今の季節、秋の展示会や顔見せに、よく締めております。三國さんのパーティーにも活躍しましたこの帯は、いかにも好博子という雰囲気です。描写の巧みさ、藍と橙をバランスよく遣った色彩感覚、何十年見ても飽きません。着物は蒔糊の訪問着。スマートカジュアにぴったりの、控えめな着物です。

    momijigari

    さて、手元には小振のビーズバッグをあしらって。小さいですが、存在感はなかなかのものです。世洋装にも和装にもぴったりのビーズバッグは、マストアイテムです。こちらは、別注でひとつひとつ手作り致しますので、ご希望の方はお問い合わせ下さいませ。

    bi-zu


  • それぞれのスマートカジュアル

    さて今回の晩餐会では、ドレスコードはスマートカジュアル(お洒落な平服)と決まっておりました。会場でご一緒になった、当店のお客様方の装いをご紹介します。それぞれのスマートカジュアルは、皆さまそれぞれの個性で上手に着こなされ、華やかな雰囲気となりました。

    こちらは、30代の若奥様。野蚕糸の着尺に、徳田義三の袋帯を締めてモダンな装いに。野蚕糸の光沢は、照明の中でいっそう上品に輝きます。帯締めの水色がとても美しく、若々しさを演出します。コーディネートのスパイスには、ブルー系がおススメです。

    muga2

    お母様です。シックな江戸小紋を大変モダンに着こなしていらっしゃいます。背中にちょっとある刺繍の花紋が、華やかです。黒地の袋帯がよくマッチしていますね。この角度からは見えないのですが、シックなコーディネートに帯留めの珊瑚がきれいに映えておりました。

    edokomonn

    いつもショートカットが印象的なキャリアウーマンのお客様です。無地紬に、バラをイメージさせる洒落袋で。帯が生きる、シンプルで上級の装いです。洒落袋は、こんな風にきっぱりと着こなせると素敵ですね。お持ちだった黒のバッグが、装いをキュッと引き締めていました。

    bara

    こうして皆さまのコーディネートを拝見すると、なるほどこんな合わせ方もあるのかと、新しい発見があります。何よりも、ご自分らしさをそのままに素敵に装って下さっていることが嬉しいです。このまま『和楽』に載せたいくらいお洒落な、スマートカジュアルです。。。!!


  • 羽織とショールの楽しみ

    晩餐会当日は、絲穂で和服姿に変身です。紫がとても似合われるお客様、この日はかんざし模様が印象的な着尺に藍田正雄氏の江戸小紋の帯を締めて。お太鼓の部分には「花」、前は「雪月」という柄付けになっております。遊び心と上品さを演出した、大人のパーティー仕様です。

    aida

    いざ、誉一山荘へ。寒すぎることなく、雨も降らず、着物でそぞろ歩くにはもってこいの気候でした。外出時には、同系色の羽織を重ねて通の装いに。右は母です。一珍染めの大判のショールをかけて。これからの季節は、羽織やショールなど重ねるものが、着こなしの重要なポイントになります。後ろからは見えない帯はとても気になりますし、裾の方しか見えない着物も気になります。そして、羽織りにしか出せない美しいシルエットがあります。重ねるお洒落、是非お楽しみ下さいね。

    aruku


  • 晩餐会にて

    14日の日曜日、誉一山荘オーベルジュ•ドゥ•ミクニにて、それはそれは素敵な晩餐会が開かれました。三國シェフがフランス共和国農事功労賞オフィシエを受賞された記念のパーティです。民間では最高の位だそうで、日本では3人目、最年少の受賞者でいらっしゃいます。宮中晩餐会のフルコースのイメージで構成されたコースは、三國さんの魅力が凝縮された素晴らしいものでした。ふれさかのブルーベリーを使った食前酒に始まり、氷見の食材がすっかり美味なるフレンチに変身しました。ソースはすべて絶品で、中でも昆布とカツオ出汁で作られた「うま味ソース」は、和風の優しいお味がしてとても印象に残っています。たくさん出していただいたお料理ですが、今思い返してもすべての味を思い出すことができます。お料理の味だけでなく、シャンパン、ミクニセレクションのワインなど(赤がまた絶品でございます!)飲み物の味も口の中で喧嘩することなく、ひとつになり、味という味すべてに三國シェフの魔法がかかったようでした。

    テーブルでご一緒だった皆様との会話や、周囲のざわめきなど、一皿ひと皿にその時その時の記憶が刻まれます。お料理は、舌だけでなく五感をフルに活用した、まさに一夜限りのドラマですね。本当に、人生に一度きりの時間です。お食事が進むにつれ、各テーブルごとに会話が弾み、だんだんと会場内が盛り上がる様子は、まさに晩餐会。素晴らしいお料理は、人と人とのご縁を深くし、そして人を幸せにするのだと実感しました。

    お料理の前後には、ピアノ演奏とソプラノの時間もあり、美しい音楽にうっとりしました。音色を深い味わいだと表現したり、お料理を良いハーモニーだと表現するように、音楽とお料理には深い関係があるんですよと、三國氏。ずっと忘れることのできない、味わい深い一夜となりました。

    こちら、食後酒として出された十年ものの「みりん」でございます。紹興酒のような風味で、イチジクのデザートと相性が抜群でした。クセになるお味です。

    mirin