指が訴えること

秋晴れの空に恵まれたとある日曜、京都の東福寺にて舞「松の緑」をみせていただくご縁をいただきました。林泰子さんという舞踊家の方の企画で、今回のテーマは「指(手)が訴えること」。昨今、自己表現やコミュニケーションと言えば、メールばかりの世の中ですが、果たして言葉だけで十分でしょうか。言葉では足らない部分を、例えば手の表現で補ってみてはいかがでしょう、という舞を通じてのサジェスチョンです。

「松の緑」は、右手に持った扇でいろいろな表現をする舞なのですが、扇を投げて受け取る動作や、要返しなどが繰り返されるので、体のほかの部分のゆっくりした動きに対して、手の動きは躍動的で目立ちます。たくさんの動きを、きっちりと美しく手指で表現するには、扇を自分の手の延長として、先にまで神経を集中させる訓練がどれだけ必要かと思います。

舞に限ったことではなく、日常においても我々の手はいつも手ぶらではありません。バッグを持ったり、ペンを持って何かを書いたり、お箸を持って食事をしたり、様々な動作をします。とても無意識的に。この日常の動作ほど、良くも悪くもその人「らしさ」が表れるものはありませんね。これら無意識のことにきちんと意識を向けてみると、うまく「自分らしさ」を表現できるのではないかと、舞を通して感じました。日常と、自分自身を見直す良いチャンスでした。

ちなみに林さんご自身は、例えば相手にコップを差し出すときには両手で置く、書類を差し出すときも、空いている手を添えるなど、ものを丁寧に扱うことを大事にしていらっしゃるそうです。それは同時に、相手を尊重することにもなり、物事が円滑に運ぶことに繋がるとのことでした。

言葉だけでは、十分ではありません。言葉を尽くせば尽くすほど、伝わらない場合も多々あります。しぐさだけでも十分ではありませんが、言葉を補う方法としてのしぐさ、自己表現をうまく身につけたいものです。