先週より、月見の帯を提案しております。月の美しい季節に、是非お召しいただきたいですね。優しい雰囲気の、千鳥格子の着尺と合わせて。お茶会やお食事、観劇にもいいでしょう。ポイントは、白地に赤い絞りの帯揚げを。少しだけ見える赤がキュートです。
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『父の背中 子がつづる北陸ゆかりの志士たち』
先日、偶然にみつけた本です。『父の背中 子がつづる北陸ゆかりの志士たち』。戦前戦後に名を残した北陸ゆかりの文士、画家、実業家(井上靖、高見順、棟方志功、室生犀星 etc…)など12人の子息が、父親の姿について書いたものです。様々な父親像がとても興味深く描かれており、たいへん面白く読めます。
印象に残っているのが、高見順さんを父に持つ、タレント高見恭子さんのエッセイです。ひとりの父親としての姿よりも、小説家 高見順としての姿を貫き通した父の遠い背中、時に見せてくれた愛情など、ちょっと切なくて、とっても素敵なエピソードでした。
どこかで目に留まれば、手に取ってご覧下さいね。
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ビロードの、黒い羽織りコート
さて今年も、ビロードの黒の羽織りコートを楽しんでおります。昨年も好評をいただきましたこちらの羽織りコート、今年も引き続きご予約を承っております。一度袖を通したらくせになる生地の心地よさ、軽さ、シルエットの美しさ…。からだの動きにぴたりと添ってくれます。柄の付け方が、またお洒落なのですよ。是非、当店でご覧になって下さいね。
黒の羽織りと決めた日は、帯で少し華やかさを出すようにしてます。この日は、渋い緑地の江戸小紋に、臈纈染めの帯を締めています。全体的に落ち着いた色目ですので、帯の赤や黄色などでポイントをつけました。帯もシックに決めたい場合は、バッグやお草履にビビッドな色を配置してもいいですね。羽織りの黒を活かしながら、とにかく一カ所、アクセントをつけると素敵だと思います。
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吉数の彩りー雲取りの振袖ー
赤や白など、明るい色の着物ばかりをきれいだと感じていたその昔、この振袖の良さが解りませんでした。地色の深みや、雲の彩りのバランス、大きさのバランス、纏ったときのバランス、桶絞りの集大成です。今となれば、雲取り文様だけで一枚の着物を仕上げる難しさを、ひしと感じます。かっきりと美しい雲たちが、吉数の「八」の格好でもくもくと上昇する様子が格調高く表現され、いかにも成人の門出のための振袖です。着る人の、これからの素敵な人生を思ってつくられたのだと想像します。
さて昨今、ただ色違いの花柄ばかりの、生地もペラペラした振袖が目立ちますが、それらは、着る人にきちんとしたメッセージや意味を持っているでしょうか。色がきれいだとか、模様が好きであるといったことは、もちろん重要な要素ですが、せっかく人生の節目になる着物ですから、作り手からのメッセージを受け取ることのできる一枚を、この世に一枚しかないような、ご縁があったと感じられるような振袖をお召しいただきたいです。
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指が訴えること
秋晴れの空に恵まれたとある日曜、京都の東福寺にて舞「松の緑」をみせていただくご縁をいただきました。林泰子さんという舞踊家の方の企画で、今回のテーマは「指(手)が訴えること」。昨今、自己表現やコミュニケーションと言えば、メールばかりの世の中ですが、果たして言葉だけで十分でしょうか。言葉では足らない部分を、例えば手の表現で補ってみてはいかがでしょう、という舞を通じてのサジェスチョンです。
「松の緑」は、右手に持った扇でいろいろな表現をする舞なのですが、扇を投げて受け取る動作や、要返しなどが繰り返されるので、体のほかの部分のゆっくりした動きに対して、手の動きは躍動的で目立ちます。たくさんの動きを、きっちりと美しく手指で表現するには、扇を自分の手の延長として、先にまで神経を集中させる訓練がどれだけ必要かと思います。
舞に限ったことではなく、日常においても我々の手はいつも手ぶらではありません。バッグを持ったり、ペンを持って何かを書いたり、お箸を持って食事をしたり、様々な動作をします。とても無意識的に。この日常の動作ほど、良くも悪くもその人「らしさ」が表れるものはありませんね。これら無意識のことにきちんと意識を向けてみると、うまく「自分らしさ」を表現できるのではないかと、舞を通して感じました。日常と、自分自身を見直す良いチャンスでした。
ちなみに林さんご自身は、例えば相手にコップを差し出すときには両手で置く、書類を差し出すときも、空いている手を添えるなど、ものを丁寧に扱うことを大事にしていらっしゃるそうです。それは同時に、相手を尊重することにもなり、物事が円滑に運ぶことに繋がるとのことでした。
言葉だけでは、十分ではありません。言葉を尽くせば尽くすほど、伝わらない場合も多々あります。しぐさだけでも十分ではありませんが、言葉を補う方法としてのしぐさ、自己表現をうまく身につけたいものです。
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藤井絞の…さて、何でしょう
この度、いかにも藤井絞らしい、いかにも伝統的な、これぞ絞りと言った絹物を仕入れました。さてこれは一体何でしょうか。白と赤の古典調子、きっちりとした職人の技、絞りの神髄です。その全貌たるや、贅極まるひと品でございます。