• 吉数の彩りー雲取りの振袖ー

    赤や白など、明るい色の着物ばかりをきれいだと感じていたその昔、この振袖の良さが解りませんでした。地色の深みや、雲の彩りのバランス、大きさのバランス、纏ったときのバランス、桶絞りの集大成です。今となれば、雲取り文様だけで一枚の着物を仕上げる難しさを、ひしと感じます。かっきりと美しい雲たちが、吉数の「八」の格好でもくもくと上昇する様子が格調高く表現され、いかにも成人の門出のための振袖です。着る人の、これからの素敵な人生を思ってつくられたのだと想像します。

    kumo

    さて昨今、ただ色違いの花柄ばかりの、生地もペラペラした振袖が目立ちますが、それらは、着る人にきちんとしたメッセージや意味を持っているでしょうか。色がきれいだとか、模様が好きであるといったことは、もちろん重要な要素ですが、せっかく人生の節目になる着物ですから、作り手からのメッセージを受け取ることのできる一枚を、この世に一枚しかないような、ご縁があったと感じられるような振袖をお召しいただきたいです。


  • 指が訴えること

    秋晴れの空に恵まれたとある日曜、京都の東福寺にて舞「松の緑」をみせていただくご縁をいただきました。林泰子さんという舞踊家の方の企画で、今回のテーマは「指(手)が訴えること」。昨今、自己表現やコミュニケーションと言えば、メールばかりの世の中ですが、果たして言葉だけで十分でしょうか。言葉では足らない部分を、例えば手の表現で補ってみてはいかがでしょう、という舞を通じてのサジェスチョンです。

    「松の緑」は、右手に持った扇でいろいろな表現をする舞なのですが、扇を投げて受け取る動作や、要返しなどが繰り返されるので、体のほかの部分のゆっくりした動きに対して、手の動きは躍動的で目立ちます。たくさんの動きを、きっちりと美しく手指で表現するには、扇を自分の手の延長として、先にまで神経を集中させる訓練がどれだけ必要かと思います。

    舞に限ったことではなく、日常においても我々の手はいつも手ぶらではありません。バッグを持ったり、ペンを持って何かを書いたり、お箸を持って食事をしたり、様々な動作をします。とても無意識的に。この日常の動作ほど、良くも悪くもその人「らしさ」が表れるものはありませんね。これら無意識のことにきちんと意識を向けてみると、うまく「自分らしさ」を表現できるのではないかと、舞を通して感じました。日常と、自分自身を見直す良いチャンスでした。

    ちなみに林さんご自身は、例えば相手にコップを差し出すときには両手で置く、書類を差し出すときも、空いている手を添えるなど、ものを丁寧に扱うことを大事にしていらっしゃるそうです。それは同時に、相手を尊重することにもなり、物事が円滑に運ぶことに繋がるとのことでした。

    言葉だけでは、十分ではありません。言葉を尽くせば尽くすほど、伝わらない場合も多々あります。しぐさだけでも十分ではありませんが、言葉を補う方法としてのしぐさ、自己表現をうまく身につけたいものです。


  • 月の帯、黒地の提案

    エントランスにて。先日より竜巻絞りの着尺に、いろいろな帯を合わせて提案しています。月をモチーフにした、趣味性の高い帯との相性もバッチリですね。優しい色合いの着物に黒地の帯を締めると、ぐっと引き締まった印象に仕上がります。ちょうど今頃、気温が下がり秋の深まりを感じる頃に、しっくりぴったりとくるコーディネートです。

    月の帯


  • バティックのストール

    シルクのストールが人気です。インドネシアのバティックをほどこしました。手描きならではの上質感、存在感でワンランク上のコーディネートを。大判なので、和装の時にふわりと肩にかけて楽しむこともできます。シワになりにくいので、旅行でも活躍しますよ。

    バティック


  • 絞りのハンカチ

    当店のベストセラー、絞りのハンカチ。この度、久しぶりに新柄が入りました。一番左の紺色は、復刻色。オススメです。

    絞りハンカチ

    一枚千円という手頃感から、贈り物にされるお客様が多いのですが、近ごろは観光でふらりとお立寄りになる皆様が、お土産にまとめて購入されることが増えました。このハンカチは、いかにも観光土産ではないところがいいんです。お魚の美味しい氷見という所に行ってきたけれど、お魚だけじゃなくて、ハットリくんだけじゃなくて、ちゃんとしたギャラリーもあって、ちょっと珍しいきれいなハンカチもあったのよ、さぁ、好きな色を選んで!という感じで。氷見でのエピソードに、お洒落が加わって、とてもいいんです。

    ハンカチというものは不思議なもので、人からいただくと何だかとても嬉しいものですね。一枚一まいに、思い出が込められていたりして、オーソドックスですが永遠のアイテムではないでしょうか。


  • 手をめぐる四百字

    季刊『銀花』の連載をまとめた『手をめぐる四百字』という本があります。作家、役者、ピアニスト、画家、あらゆるジャンルの著名人が、それぞれ「手」について四百字のエッセーを書いています。生原稿がそのまま載っていて、その人の書く文字そのもの、筆跡、文体、息遣いがリアルに感じられます。

    この度パート2が出まして、こちらは女性だけのエッセーを集めたものです。女性だけと言えど、職業や生い立ち、歩んできた道のり、刻まれた記憶よって、こんなにも様々な「手」があるものかと驚かされます。どれも印象的で、これはというひとつをご紹介できません。四百字は原稿用紙一枚ですが、ほんの一枚に収められた「手」の世界は、限りなく広く深いものです。

    明日で彼岸が明けますが、この一週間は、ご先祖に手を合わせることが多かったのではないでしょうか。故人を想う時、祈る時、厳かな気持ちの時、自然に手を合わせてしまいます。手は、非常にスピリチュアルな部分なのでしょう。

    さて、身に着けるものを選ぶ時、顔映りばかりを気にするものですが、手映りというものも、これ大切です。腕を露出しない着物の場合は特に。袖口から見える手は、まさにその人と成りそのもの。手によく映る色、柄、生地感を発見して行くのも、和装の楽しみです。

    この秋は、手について少し考えてみましょうか。