今日は、谷川俊太郎さんの「手紙」という詩をご紹介します。繰り返し読めば読むほど、深く心に入ってくる感じです。以前、谷川さんの朗読ライブを聴いた時、一番印象に残りました。声に出すと、とてもきれいです。
近ごろ、手紙を書いてますか?文字でしか伝えられないことって、意外とたくさんあるんですよね。
<手紙>
電話のすぐあとで手紙が着いた
あなたは電話ではふざけていて
手紙では生真面目だった
<サバンナに棲む鹿だったらよかったのに>
唐突に手紙はそう結ばれていた
あくる日の金曜日(気温三十一度C)
地下鉄の噴水のそばでぼくらは会った
あなたは白いハンドバックをくるくる廻し
ぼくはチャップリンの真似をし
それからふたりでピザを食べた
鹿のことは何ひとつ話さなかった
手紙でしか言えないことがある
そして口をつむぐしかない問いかけも
もし生きつづけようと思ったら
星々と靴ずれのまじりあうこの世で