裏管理人独白:「悪徳の勧め」

裏管理人です。日曜はこのサイトの通常の更新がない日ですので、その機に乗じてちょっとだけ書いてみます。

先日の朝日新聞の夕刊に、経済学者で東京大学教授の岩井克人さんが、「悪徳の勧め」というちょっと面白い表現を使って、昨今の停滞している経済状況に関して、提言をしています。

岩井先生は、まず経済学者ケインズによる「不況」の定義を紹介してくれます。

不況とは、人が本来商品を買う「手段」であるお金を、将来への不安に備え、商品より欲しがって貯め込んでしまう状態だと、いったそうだ。お金さえあれば安心だと。で、物が売れないから売り手は値段を下げる。でも売れない。この状況をお金を貯めている側から見ると、お金の価値が上がることになるため、ますます貯め、また売れなくなるという悪循環。

今のデフレ状態は、まさにこのケインズが定義する状況とぴったり符合しますね。各業界の一部の企業が、熾烈な価格戦争の中で商品やサービスの値段を下げることによって、「勝ち組」となっているわけですが、多くの経済学者や有識者が指摘している通り、長い目で見ればこの状況は、完全に自分の首を絞めていることにしかならないわけです。貯め込まれることで、お金は流れなくなってしまうと、最終的には「勝ち組」の商品やサービスも売れなくなり、結果的に自滅へと向かうのですから。

岩井先生は、このような状態においては、各種のセーフティーネットの創設はもちろん必要だが、「悪徳の勧め」も必要だと述べています。

質素、倹約に努めるという個々人の美徳的な行動が、まとまれば結果として、さらに人々の生活を脅かすものになる。昔から多くの経済学者が指摘していましたが、浪費や美食などの多少の悪徳を許して経済を刺激しないと、経済は生きていけないのです。

「悪徳」という言葉に差し障りがあるならば、「心の余裕」とでも置き換えてもいいのかもしれません。今の日本の経済状況は、無駄な脂肪がない筋肉質の身体を通り越して、飢餓状態で骨と皮だけの身体になりつつあります。でも、一方でお金は万が一のために貯め込んでいる。お金は貯めているけれども、それを使わずに、自らを飢えへと追いやっているような状態です。岩井先生の言う「悪徳」とは、このような経済的身体に与えるべき「食べ物」だと言ってもいいでしょうか。お金を「食べ物」に交換することで、お金の流れが生じ、停滞が改善されていく一助となるのです。

長く続く倹約生活には気持ちも荒んできます。自分を励ます意味で、「悪徳」をちょっぴりかじってみてはいかがでしょうか。

岩井先生の『ヴェニスの商人の資本論』は面白いですよ。シェイクスピアの有名な『ヴェニスの商人』を、経済学の視点、特に「交換」という概念からダイナミックに解釈した論が巻頭に収められています。