藤井絞の記憶3─桶絞り─

藤井絞に関する記憶の中で、最も印象深いのが「桶絞り」という言葉です。文字通り桶で染め分ける絞り技法ですが、繰り返し聞かされ、とにかく言葉だけは脳にインプットされました。

こちらが、桶絞りで使う桶です。

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ただの桶ではありません。絞り専用の桶です。専用ですから、この桶だけを作る職人さんがいらっしゃいます。

さて、蓋の下から茶色に染まった生地が顔を出しているのがお分かりでしょうか。たった今、染め職人さんのところから茶色に染められて帰ってきたばかりです。(藤井絞さんにお邪魔すると、よく桶に遭遇します。この写真も藤井さんで撮影したものです。)次は、桶に生地を仕込む職人さんのところへ運ばれ、違う色に染めたいところが桶の外に出るように様子を変えます。こうして、二カ所の職人さんの間を行ったり来たりします。色数が多いほど手間がかかります。

大きな面積を染め分けるのが、桶絞りの特徴です。こちらの振袖をご覧下さい。

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赤、紫、緑が大きく美しく染め分けられています。その間に細い黄色の部分がありますね。これも桶で絞るのですが、このように細い部分を染めるのは非常に難しく、熟練した技術が必要とされます。生地をはさんで蓋を締める作業は、本当に神経をすり減らす仕事です。締め過ぎては生地を痛め、緩いと色が混ざり合ってしまいます。このように、くっきりときれいに染め分けれられているのは、素晴しい技の結晶です。

それから、色の美しさにいつも圧倒されます。染めが良いと、原色ばかりが同居しても喧嘩しません。どの色もその特色を出しながら、他の色をも引き立たせているようです。

人間同士もこんな風だったら、関係がとてもスムーズに行くのになぁ、なんて考える時もあります。

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