立松和平氏の『きもの紀行』第三弾は、精好仙台平(せいごうせんだいひら)という袴に注目してみましょう。
もともとは、仙台藩が生産した御用織物である仙台平ですが、今では甲田綏郎(よしお)さん一家のみが織る大変貴重なものとなりました。身に着けると、その価値はまさに身を以てわかるそうですが、生地に触れてみるだけでもわかります。この袴は、ただものではないという緊張感が指先に走ります。背筋が伸び、拝みたくなるような神々しさが漂います。張りと柔軟性の見事な融合。やはり男性のためのもの。女性には着こなせない位の高さを感じます。
『きもの紀行』に、「一糸現念」という言葉が紹介されています。甲田家に代々伝わる言葉で、立松氏曰く、
機を織るときの心構えであるという。一糸に、糸を紡ぐ人、染める人、織る人、着る人、すべての思いが現れるという意味だろうか。
身に着ける人が檜舞台に立つことを想像し、全身全霊をかけて織る、それが甲田家のやり方。先代の甲田栄佑さんの教えは、綏郎さんと、後継者である娘さんたち、お姉さん、妹さんにしっかりと受け継がれています。
伝統を守り、仕事を守り、家族を守る。容赦なくはいってくるものと戦って、結局、伝統と仕事と家族だけが残ってきた。この道以外に生きる道はないんですね。。。仕事していく過程で、親の心の受け継ぎがわかります。親から子への魂の受け継ぎなんです。一生が勉強です。根気がいる仕事ですから、いつも心を平にして、一心に仕事に打ち込めるのも、家族の支えがあるからこそなのです。
と、綏郎さん。仙台平の神々しさは、甲田一家の絆から生まれ出ているのでしょうね。