3月4日に着付けの練習にいらっしゃったお客様、本日は袋帯にチャレンジです。
お着物は同じ江戸小紋ですが、帯によって雰囲気がガラリと変わります。初めてのチャレンジでしたが、きちんと帯の形が出来上がっています。
今度は、お子様の入学式にお召しになるそうです。卒業式と入学式で同じ着物を二度楽しむやり方、素敵ですね。
富山県氷見市の呉服屋 きものの館絲穂
個人的な心がけですが、きものを着る前日は足袋や下着にアイロンをかけます。そんな面倒なことしなくても、今どきはノンアイロンの足袋もありますよなんて言われそうですが、敢えてそうしているのです。
皺を伸ばしながら、いろいろ考えるんです。着姿を想像して、翌日の予定に思いを馳せる。円滑に物事が運びますようにと、願いをかける。おまじないのようなものです。
それに、皺が伸びた下着は気持ちがいい。自分にしか分からない満足感ですが、きものを着るときには、そういった人の目に見えない所作がとても大きく作用していると思います。
面倒なことも、やってみると意外とやみつきになったりして。自分だけの密かなやり方を作ってみるのも、きものの楽しみ方のひとつです。
さて、ずいぶんと温かくなって参りました。お天気が良いときものでのお出かけも楽しくなりますね。私がきものを着る際に気をつけていることのひとつに、下着選びがあります。特にこれからの季節はしっかりと汗と取ってくれるもの、肌に優しいものがベストです。
ここ数年間愛用している肌襦袢が、こちらのあしべ織汗とり。吸水力の大変強い天然素材、燈芯が主な材料で、夏は汗取りになり冬は温かく防寒の役割がありますので、オールシーズンお使いいただけます。あせもでお悩みの方、一度ぜひお試し下さい。ちょうどお腹周りの部分が二重に織られておりますので、細身で補正が必要な方はタオルなしでもしっかりと帯が胴にのり、安心感を得られます。
私はこの肌襦袢に出会ってから、こればかり。半信半疑で試されたお客様も、洗い替えに二枚目をお求めにいらっしゃいます。Mサイズ14,000円、L15,000円と、少し値は張りますが後悔はさせません。
また、裾よけはキュプラという素材をお薦めします。汗をかいてもサラサラとしており足にまとわりつきません。特に、長時間正座なさる場合や舞踊のお稽古などに最適でしょう。下着は見えないものですが、肌に一番近い部分ですので、決して軽視なさらないで下さい。下着の素材感、有り様によって着姿や精神的な満足感がまるで違ってきます。今春は下着にご注目下さい。
昨日は、大阪のお客様と梅田でランチをしました。場所は梅田芸術劇場のほど近く、SOLVIVAというお店。パスタ、グラタン、雑穀米プレートなど数種類あるランチメニューには、有機野菜が使われています。美味しい野菜や、お塩などの調味料が店内で販売されているのも魅力です。
さて、本日の装い。どちらも大島紬です。お客様は春らしい白地に蚊絣の大島に、墨黒の名古屋帯という組み合わせ。私は黒無地の大島に、チェックの名古屋帯。同じ無地っぽい大島でも、白と黒で印象が全然違います。いろいろと帯で表情を変えて楽しむことができます。袖を通す度に柔らかくなり、からだになじむのも大島の特徴ですから、ちょっとしたお出かけも着物で行ってみたくなりますね。
時々、揃って和装でご来店下さるこちらの親子、帯の魅力を活かしたコーディネートが素敵です。右、お嬢様がお召しの帯はサンシーオン作のもの。更紗柄なのですが、昨日ご紹介したものとは対照的に繊細なタッチで描かれています。お母様のコーディネートは黒を基調に統一され、帯のアップリケが印象に残りますね。
今から約20年前、フランス人デザイナーでアーメルド・サンシーオンという女性の作ったきものや帯が一世を風靡しました。女性ならではの感性でペーズリーなどの更紗柄が表現されています。こちらの帯はもちろん当時のものですがとても上質な染めが施されており、まったく色あせることがありません。むしろ、シックな無地のきものに合わせると今の時代にこそぴったりとくる作品ではないでしょうか。きものは細かい格子柄の大島です。
以前に、米沢氏の作品の特徴は色だと申しました。こちらの色無地も四度染めされたもの。非常にあか抜けたものです。今日は、同作家の名古屋帯を合わせました。作風の第二の特徴は、描き方にあると言えるでしょう。重々しい感じではないけれども、しっかりと存在感があり、同時にしなやかな動きも感じられます。空間の使い方が絶妙ですね。独特の色使いと描き方が相俟って、モダンな仕上がりです。同じ作家の作品どうしを合わせると煩くなることもありますが、米沢氏の場合はすっきりとバランスのとれたコーディネートになります。
立松和平氏の『きもの紀行』シリーズ二回目は、黄八丈を作る山下八百子さんをクローズアップします。
黄八丈は、八丈島の草木で染められた織物です。黄色、樺色、黒の三色で構成される黄八丈、その特色は「この三色で縞と格子を織り込み、絣がないことである。色の布といってよい。シンプルで粋である。」と立松氏。その美しさゆえ、黄八丈はかつて江戸に年貢として納められていたそうです。作り手は、年貢のためひたすら苦労に耐えたとのこと。
無形文化財保持者の山下さんは、「我慢せい我慢せい、我慢していれば、下駄についた土もいつか自分のものになる」というおじいさまの言葉を聞きながら、幼い頃より黄八丈作りに関わって来られたそうです。山下さんの作品から感じられる優しさは、苦労と我慢を乗り越えた末にあるものなのかもしれません。
山下八百子作、草木染め黄八丈。美しく優しい三色のグラデーションをお楽しみください。
『きもの紀行』シリーズ一回目はこちら。