• 米沢進之介の仕事2

    以前に、米沢氏の作品の特徴は色だと申しました。こちらの色無地も四度染めされたもの。非常にあか抜けたものです。今日は、同作家の名古屋帯を合わせました。作風の第二の特徴は、描き方にあると言えるでしょう。重々しい感じではないけれども、しっかりと存在感があり、同時にしなやかな動きも感じられます。空間の使い方が絶妙ですね。独特の色使いと描き方が相俟って、モダンな仕上がりです。同じ作家の作品どうしを合わせると煩くなることもありますが、米沢氏の場合はすっきりとバランスのとれたコーディネートになります。

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  • 『きもの紀行』シリーズ2ー山下八百子の世界、黄八丈という三色の美ー

    立松和平氏の『きもの紀行』シリーズ二回目は、黄八丈を作る山下八百子さんをクローズアップします。

    黄八丈は、八丈島の草木で染められた織物です。黄色、樺色、黒の三色で構成される黄八丈、その特色は「この三色で縞と格子を織り込み、絣がないことである。色の布といってよい。シンプルで粋である。」と立松氏。その美しさゆえ、黄八丈はかつて江戸に年貢として納められていたそうです。作り手は、年貢のためひたすら苦労に耐えたとのこと。

    無形文化財保持者の山下さんは、「我慢せい我慢せい、我慢していれば、下駄についた土もいつか自分のものになる」というおじいさまの言葉を聞きながら、幼い頃より黄八丈作りに関わって来られたそうです。山下さんの作品から感じられる優しさは、苦労と我慢を乗り越えた末にあるものなのかもしれません。

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    山下八百子作、草木染め黄八丈。美しく優しい三色のグラデーションをお楽しみください。

    『きもの紀行』シリーズ一回目はこちら


  • マイカップ

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    こちらマイカップです。香蘭社製。開店当初は母が使っていたものですが、今は私におさがりとなりました。とても気に入っております。

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    いろんなカップがそろっておりますので、お好きなのでコーヒーをどうぞ。


  • 心に留めたい言葉3ー火力についてー

    「親も代から台所仕事を見て七〇年。くらくら、ぐらぐら煮てよいものなど一つもないと考えている。(中略)スープの具材を炊いて行く場合、決して10の火を10で使って煮立ちをつけない。中火の強ー10の火を7か8で使う。(中略)これは大切な大切な味の鍵である。10の火は1から始まる。2−3までが弱火、4は弱火の強。5ー中火、6ー7ー8は中火の強、9ー強火、10最強。加えて0がある。これは余熱。余熱の計算ができるようになれば、仕事は楽しい。愛の世界にも余熱があるでしょ。「残心」なんて言葉を、態度で表せたらね。」(辰巳芳子『あなたのためにーいのちを支えるスープ』より)

    明日はバレンタインですね。手作りされる方もいらっしゃるでしょう。チョコレート作りも余熱が鍵なのかもしれません。よき一日となりますように。


  • 心に留めたい言葉2ー食べつかせるー

    「日本語に「食べつかせる」「食べつく」という、看護人の態度と、病人の様子を表現した、独自の言葉がある。食べつかせるとは、食べられる状態であるのに、食べれば回復が早いはずなのに、食欲がきっかけをつかめず、宙をまさぐっているような人。この人の気の先をつかんで、好みのものを与え、食欲の焦点をつくってあげることをいう。「なんとかして、食べつかせねばー」 これである。みんな、こうしてもらって今日がある。(中略)食べつかせるーこの言葉、現代にこそ流行らせたい。食べつかせられる親の子供に、「キレる」はないであろう。」

    これは、料理家で随筆家である辰巳芳子さんの著書『あなたのためにーいのちを支えるスープ』にある一節です。私がこの本を手にしたには二年前。表紙に色のグラデーションの図が使われているのに興味を持ったからでした。タイトルを見ずに表紙だけ見れば、ファッション関係、衣に関する本に見えます。きものを染める時の色見本と本当によく似ているのです。しかしこれは、紛れもなくスープの書物です。表紙の色体系は、食材の色とスープ作りの技法を示しているそうです。日常生活を衣食住というからには、着ることと食べることは密接に連動しているハズだけれども、具体的に証明してくれるものがなくモヤモヤしていた私にとって、その色体系との出会いは、非常に大きなものでした。食の世界にも色見本があるんだ、やっぱり衣の世界と同じなんだ。単純なことかもしれませんが、救われた気持ちがしました。

    読み進めて行くと、これは単なるスープのレシピ本ではないことが解ります。スープ、おつゆものの意味と役割を改めて考えさせられます。食べるという日常行為がいかに生命にとって大切であるか、親と子、人と人の絆を結ぶためにいかに大切なことであるかということを。上記の「食べつかせる」という言葉にもあるように、食べるという行為はその家々で伝えなければならないものなんですね。読みながら、きものの世界でも、たとえば畳むことや身に着けることは、やっぱり家の中で伝わって欲しいなと強く思いました。家の中で伝わるものには、単なる順番や方法でなくその間にあるもの(それはうまく言葉では表現できないのですが)があり、それが絆になるのだと思っています。我々、衣に携わる者が今すべきことは、家の中で衣が続いて行くようにお手伝いをすることであろうと再認識させられました。お母さんがきものを着られないなら、娘さんが着られるようになってお母さんに教えてあげる、それもひとつの在り方です。買うだけがきものではありませんから。きものとは衣とはどういうものなのか純粋に興味を持って来ていただける店にしていきたいという前向きのパワーを、辰巳さんの本からもらいました。

    皆さまも一度是非、手にしてみて下さい。きものが難しければ、まずは美味しいスープから始められてはいかがでしょうか。

    あなたのためにーいのちを支えるスープ』辰巳芳子著 文化出版社


  • 二代目と三代目

    先日、学生落語を聴きながら、故二代目桂春蝶さんのことを思い出していました。私は、CDでしか春蝶さんを知ることができませんが、落語を好きになるきっかけを与えてくれた落語家さんです。透き通った声とチャーミングな調子に、いつも元気づけられていました。時々、無性に聴きたくなるのが「猫の忠信」というお噺。ぬくい刺身なんておもしろい言葉が出てきます。お刺身は、冷やしていただくものですが、どうしてあたたかいのでしょうねぇ。気になる方は、CDでお確かめ下さい。

    さて今年、二代目のご子息が三代目春蝶を襲名されるそうです。ご子息の落語は、余韻としてじんわり心に残る心ポカポカ落語でございます。古典が大変にお上手で、私は「七段目」が気に入っています。それから、お着物がよく似合われます。特に、真横から見た立ち姿は非常に美しい!羨ましいなぁと、いつも思います。寄席に行かれた際には、見逃さないようにしてください。真横の立ち姿です。

    桂春蝶(二代目)のCDはこちら